
WebやアプリのUIデザインをしていると、「パーツが増えて管理が大変」「デザインがバラバラになって統一感がない」といった問題にぶつかることがあります。そんな課題を解決するアプローチとして注目されているのが「アトミックデザイン(Atomic Design)」です。
この記事ではアトミックデザインとは何か、どう使うのか、メリット・デメリットまで、実践に役立つ形でわかりやすく解説します。
アトミックデザインとは何か?
アトミックデザインは2016年にアメリカのフロントエンド開発者ブラッド・フロスト(Brad Frost)によって提唱されたUIデザインのフレームワークです。名前のとおり「原子(Atom)」のような最小単位のパーツからUIを組み上げていく考え方です。
この手法では、ユーザーインターフェース(UI)を5つの階層に分けて構築します。目的は再利用性と一貫性のあるUI設計。デザインと開発の間で「共通言語」を持つことができ、効率的にプロダクトを作ることが可能になります。
なぜアトミックデザインが注目されているのか?
従来のUI設計ではページ単位やコンポーネント単位で場当たり的に作られがちで、似たようなボタンや入力フォームが複数存在してしまうこともあります。
結果として以下のような問題が起きます。
- UIがバラバラで一貫性がない
- 修正に手間がかかる(1か所直すと他も直す必要がある)
- 保守性が悪くなる
アトミックデザインを使えばこれらの問題を回避しやすくなります。部品を「小さく」分割して管理しそれを「組み合わせて」使うので、変更も影響範囲も明確。設計思想に筋が通っているため、プロダクト全体のクオリティが保ちやすくなります。
アトミックデザインの5つの構成要素
アトミックデザインではUIを次の5つの段階に分けて捉えます。
1. Atoms(原子)
最小単位のパーツです。
- ボタン
- ラベル
- テキストフィールド
- アイコン
これらはそれ自体では意味を持ちませんが、組み合わせることで機能を持つようになります。
2. Molecules(分子)
Atomsを組み合わせた、単一の機能を持つコンポーネントです。
- ラベル + 入力欄 → フォームフィールド
- アイコン + テキスト → ボタン
この段階でUIとしての「意味」を持ち始めます。
3. Organisms(有機体)
MoleculesやAtomsをさらに組み合わせた、より複雑なUI部品です。
- ヘッダー
- カード
- ナビゲーションバー
Organismsになると、実際のUIで再利用できる単位になります。
4. Templates(テンプレート)
Organismsを配置してレイアウトを組んだものです。構造だけを表しており、中身(テキストや画像などのコンテンツ)はまだ入っていません。テンプレートはUIの「骨組み」を確認するためのものです。
5. Pages(ページ)
Templatesに具体的なコンテンツを流し込んだ完成形。ここで初めて実際の画面としてユーザーに見せるものになります。
実際のUI設計への適用例
たとえば「ユーザーログイン画面」を作るとします。
- Atoms:テキストラベル「メールアドレス」、入力フィールド、ボタン
- Molecules:ラベル+入力欄のコンビ(メールアドレス欄、パスワード欄)
- Organism:それらをまとめたログインフォーム
- Template:画面のレイアウト(ロゴ、フォーム、ヘッダーなどの配置)
- Page:特定ユーザーのデータを表示したログイン画面
このように、下から順に積み上げていくことで、パーツの再利用性が高く、変更にも柔軟に対応できます。
アトミックデザインのメリット
- 再利用性の高さ
- 同じAtomsやMoleculesを複数の画面で使い回せる
- 変更の容易さ
- ボタンの色やサイズを一か所変えれば、全体に反映される
- 一貫性のあるデザイン
- ルールに基づいて構成されるため、ばらつきが減る
- ドキュメント化しやすい
- パーツ単位で設計・管理することで、デザインシステムに落とし込みやすい
アトミックデザインのメリット
- 初期設計に時間がかかる
- 細かく分解して作るため、最初は手間が増える
- 理解にラーニングコストがかかる
- 非エンジニアやデザイナーが慣れるまで時間が必要
- 抽象化しすぎて迷子になることも
- 「これはMoleculeかOrganismか?」といった迷いが生じやすい
ただしこれらは「習熟」と「チーム内ルールの明確化」で解消可能です。
チーム開発における活用方法
アトミックデザインは特に複数人のチーム開発と相性が良いです。デザイナーとエンジニアが同じ「部品レベルの共通認識」を持てるため、以下のようなメリットがあります。
- デザインの仕様書がコンポーネントベースになるので実装が楽
- 修正対応も「どの部品を修正するか」が明確
- デザインシステムを整備しやすく、拡張性が高い
FigmaやStorybookなどのツールを活用すると、よりスムーズに実装までつなげられます。
まとめ:アトミックデザインは「作りやすさ」と「保ちやすさ」の両立手法
アトミックデザインは一見すると回りくどく感じるかもしれません。しかし、複雑なUIをチームで効率よく作り、保守性も高く保つには非常に有効な方法です。
ポイントは以下のとおりです。
- UIを部品単位で分割・管理する
- 再利用を前提に設計する
- チーム内で共通言語を持つ
最初は慣れが必要ですが、一度仕組みを作れば圧倒的に運用が楽になります。これからのUI設計に、アトミックデザインは欠かせないアプローチになるはずです。
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