転職活動で最初に突き当たった壁は、ポートフォリオだった。
Webサービスの企画・ディレクターとして5年働いてきたが、「UIデザインの実務経験」として提示できるアウトプットが薄かった。言葉で「UIの方向性を決めてきた」と書いても、画面で見せられるものがなければ伝わらない。
Google Stitch を使ってポートフォリオを作り直したのは、そういう背景からだった。使ってみてわかったこと、転職活動に与えた影響を、ここに書いておく。
ポートフォリオに何が足りなかったか
転職エージェントに相談したとき言われたのは「実際に作ったUIを見せられるといい」という言葉だった。コンセプトや企画書ではなく、「画面」として見せるものが弱いという指摘だ。
UIの方向性を決めたり、デザイナーへの指示出しをしたりという経験は豊富にある。しかし、自分の手で「画面」を出力したことはほぼなかった。Figmaを本格的に習得する時間もない。そこで Google Stitch を試してみることにした。
実際に作ったポートフォリオの内容
過去に携わったサービスの「UIを自分だったらこう作る」という仮想リデザインを3点作ることにした。実際の案件そのものではなく、自分の思想を込めた「提案としてのUI」だ。
1点目は社内向けタスク管理ツールのリデザイン案。「情報が多すぎて迷子になりやすい」という実際の課題感をもとに、「必要な情報だけ表示するミニマルダッシュボード」をコンセプトにした。Google Stitch で3パターン生成し、一番意図に近いものを調整して使った。
2点目はBtoCサービスのオンボーディング画面。「初回起動時に離脱率が高い」という問題意識から、「5ステップ以内で価値を体験させる」フローを設計した。各ステップの画面を Google Stitch で生成し、フロー図と合わせてまとめた。
3点目は飲食店向けモバイルオーダーのUI。ターゲットを「デジタルに不慣れな高齢者も使える」に設定し、大きなボタン・シンプルな導線・明確な確認画面という設計方針で作った。
「作った」と「企画した」の違いを体感した
この作業を通じて、「企画する」ことと「作る」ことの違いを強く感じた。頭の中で「こういうUIがいい」と思っていたものを実際に生成してみると、「思っていたのと違う」が連続する。それを言語化して再指示する、という作業の中で、自分のUIへの解像度が上がっていった。
ポートフォリオを作る過程が、そのままUIデザインの学習になっていた。
選考への影響
ポートフォリオを更新してから、面接での話題が変わった。以前は「どんな仕事をしてきたか」という経歴の確認に終始しがちだったが、「このUIでこういう判断をしたのはなぜか」という議論に入れるようになった。
特に反応が良かったのは、生成物をそのまま出すのではなく「なぜこの設計にしたか」の説明を添えたことだ。「AIが作ったUI」ではなく「自分の思想をAIで表現したUI」として伝えることで、受け取られ方が変わった。
最終的に希望していた職種でオファーを得ることができた。Google Stitch が直接的な理由とは言えないが、「画面で見せられるポートフォリオ」を持てたことは確実に影響していたと思っている。
AI生成のポートフォリオは「ズル」なのか
この点は、正直に向き合っておきたい。
AI生成ツールを使ったことを面接で隠すつもりはなかった。聞かれたら「Google Stitch を使いました」と答えるつもりでいたし、実際に1社で聞かれて答えた。その企業の反応は「どう使ったか教えてください」という前向きなものだった。
写真がカメラで撮ったものであっても写真家の作品である、という例えと同じで、ツールを使うことは問題ではない。重要なのは「そこに自分の判断と意図があるか」だ。それさえあれば、AI生成であることはデメリットにならない——少なくとも私の転職活動ではそうだった。
よくある質問
Q1. デザイナー職への転職でもAI生成のポートフォリオは有効ですか?
職種と企業によります。「手を動かす力」を重視する企業では、ツールに依存したポートフォリオへの評価が厳しいこともあります。一方、「UXやプロダクト思考」を重視する企業では、意図と判断が伝わるポートフォリオであれば評価されやすい傾向があります。ターゲット企業の文化を調べた上で判断することを推奨します。
Q2. ポートフォリオに「AI生成を使用」と明記しましたか?
明記しませんでしたが、聞かれた場合には正直に答えました。明記するかどうかよりも、「なぜその設計にしたか」を説明できる状態にしておくことの方が重要だと感じています。
Q3. Figmaが使えなくてもポートフォリオを作れますか?
Google Stitch で生成したHTMLをブラウザで表示してスクリーンショットを撮る方法であれば、Figmaがなくてもポートフォリオの画像素材を作れます。PDFにまとめる場合も、スクリーンショットをそのまま使えます。
Q4. どのくらいの時間でポートフォリオ3点を作りましたか?
各案件のコンセプト整理に1〜2時間、生成と調整に1〜2時間、説明文のまとめに1時間程度で、1点あたり3〜5時間ほどでした。3点合計で2〜3日の作業量です。
Q5. 転職活動後も Google Stitch を使い続けていますか?
はい。転職後の業務でも探索フェーズのUIプロトタイプに使っています。転職活動を通じてツールの使い方に習熟したことで、業務での活用もスムーズに始められました。
Q6. 非デザイン職から転職する場合、Google Stitch 以外に準備しておくとよいことはありますか?
UIデザインの基本原則(視覚的階層・余白・色の使い方)を学んでおくと、プロンプトの精度が上がり、生成物の評価眼も育ちます。UXリサーチやユーザーインタビューの手法を学ぶことも、「画面の裏にある思考」を語れるようになるために有効です。
まとめ
転職活動のポートフォリオを Google Stitch で作り直した経験から言えること。
- 「画面として見せられるアウトプット」がポートフォリオに必要だった
- 仮想リデザインを3点作ることで、自分の設計思想を可視化できた
- 「作る過程」がそのままUIへの解像度アップの学習になった
- AI生成であることよりも「意図と判断があるか」が評価の分かれ目
- 面接での議論が「経歴確認」から「設計の議論」に変わった
ツールの力を借りて「自分の思想を画面にする」——その経験がキャリアを動かした。