「この会社、いまだにFAXが主流なんです」という言葉から始まったプロジェクトがあった。創業70年の食品メーカーで、社内の受発注管理システムのUI改善を依頼された。
デジタルへの抵抗感が強い組織文化、10年以上前から変わっていないシステム、「使いにくくても慣れている」社員——この環境で Google Stitch をどう使ったか、正直に記録する。
結論から言うと
伝統的な組織でのUIリデザインプロジェクトで、Google Stitch は「技術的な設計ツール」より「対話を生み出すコミュニケーションツール」として機能した。ビジュアルを素早く作れることで「言葉だけの会議」から「画面を見ながらの具体的な議論」に変化し、デジタルに慣れていない社員からも「これならできそう」という前向きな反応を引き出すことができた。
プロジェクトの背景
依頼元は創業70年の食品メーカー(社員数約150名)。受発注管理システムは10年以上前に導入されたもので、UIは一切更新されていなかった。課題の発端は「新入社員の定着率が悪い」という経営課題だった。人事担当者が調査したところ、「仕事道具(システム)が古くて使いにくいことが不満の一因」という声が複数出てきた。
経営陣から「システムのUI改善でコストを大きくかけずに改善できるなら試したい」という依頼を受けた。大規模なシステム刷新ではなく、「画面の見た目と使い方を改善する」ことがスコープだった。
「デジタルへの抵抗」という壁
プロジェクトを進めるにあたって最初に直面したのは、社員の「デジタル改善への懐疑心」だった。「今のシステムで慣れているから変えないでほしい」「変えると覚え直しが大変」「今まで問題なかったじゃないか」——これらの声が、現場のベテラン社員から出てきた。
この懐疑心は合理的だ。過去に「新しいシステムを入れたら大混乱になった」という経験がある組織では、「変化への不信感」が蓄積している。UI改善であっても、その不信感の延長線上にある。
Stitch を「説得のツール」として使う
この懐疑心を乗り越えるために、Stitch を「説明のためのビジュアル生成ツール」として使った。「このシステムの画面を、こんなふうに改善したいと思っています」という言葉だけの説明より、「現在の画面(スクリーンショット)」と「改善後のイメージ(Stitch 生成)」を並べて見せる方が、社員の反応が全然違った。
「変える」ことへの恐れは、「どう変わるか分からない」という不確実性から来ることが多い。Stitch でビジュアルを見せることで「こう変わる」が具体的になり、不安が和らいだ。「これなら分かりやすそうだね」という言葉が、ベテラン社員から初めて出てきたのは、比較ビジュアルを見せた後だった。
老舗企業のUIリデザインで特有だったこと
このプロジェクトで経験した、老舗・伝統企業特有の課題を整理する。
「分かりやすさ」より「見慣れた感」が優先されることがある
UIデザインの原則では「シンプルで分かりやすいUI」を目指す。でも長年使い続けてきたUIに慣れている社員にとって、「見慣れた」UIの方が心理的に安心できることがある。
改善UIの提案をしたとき「こちらの方が分かりやすいですよね?」という質問に対して「でも今のUIの方が慣れているから」という回答が返ってくることがあった。「客観的な分かりやすさ」と「主観的な慣れ」が競合する場面だ。
対処法:「今のUIの構造はできるだけ変えない、見た目(色・フォント・余白)だけを改善する」というアプローチにした。Stitch でも「現在のUIの構造を維持しつつ、視覚的な読みやすさだけを改善したバージョン」というプロンプトで生成することで、「大きく変わった感」を与えずに品質を上げるUIを作れた。
意思決定に時間がかかる
老舗企業は意思決定のプロセスが長い傾向がある。「現場の承認→部門長の承認→経営陣の確認」という複数のレイヤーを経るため、UI改善案の採用に時間がかかった。Stitch で素早くビジュアルを作れても、それが採用されるまでのリードタイムは短縮できなかった。
この中で Stitch が役立ったのは「各階層への説明コストを下げること」だった。同じビジュアルを現場・部門長・経営陣それぞれに見せることで、「毎回ゼロから説明する」コストが大幅に下がった。
変化への恐れへの向き合い方
「変えることへの恐れ」に対して、私が取ったアプローチは「段階的な変化の可視化」だった。「まず1つの画面だけ変えて、問題なければ次の画面も変える」というフェーズ設計をビジュアルで示した。Stitch で「Phase1: この画面だけ改善」「Phase2: 追加でこの画面を改善」という段階的なロードマップをビジュアル化することで、「いきなり全部が変わる」という恐れを和らげた。
プロジェクトの結果
3ヶ月のプロジェクトを経て、最初の対象画面(受注一覧画面・発注確認画面の2画面)のUIが改善された。主な変化は:フォントサイズの拡大・余白の最適化・ボタンラベルの日本語化(英語だったものを変更)・エラーメッセージの分かりやすい表現への変更——これらは技術的な大きな変更なしに実施できた変化だ。
3ヶ月後の社員アンケートで「使いやすくなった」という回答が回答者の71%から得られた。「変えないでほしかった」というベテラン社員の一人からも「思ったより違和感がない、見やすくなった」というコメントが返ってきた。
よくある質問(FAQ)
Q1. デジタルに不慣れな社員がいる組織で UI 改善を進めるには何が大切ですか?
A. 「変えることへの丁寧な説明」と「段階的な変化」が最も大切でした。なぜ変えるか・何がどう変わるか・どのくらいの期間で変わるかを、ビジュアルを使って具体的に伝えることで、抵抗感が和らぎました。一度に全部を変えず、1画面ずつ段階的に進めることも重要です。
Q2. 老舗企業・伝統企業のプロジェクトで Stitch を使う際の注意点はありますか?
A. 「現在のUIからの変化量を小さく見せる」プロンプト設計が重要でした。「シンプルで洗練されたモダンUI」ではなく「現在のUIの構造を維持しながら読みやすさを改善したUI」というアプローチが、社員の受け入れやすさを高めました。
Q3. 意思決定が遅い組織でプロジェクトを進める方法はありますか?
A. 「小さな成功を早く作る」ことが効果的でした。1画面だけ改善して「使いやすくなった」という実感を現場に作り、それを次の承認の根拠にする。小さな成功の積み重ねが、大きな組織変化への道を開きます。
Q4. 「慣れているから変えたくない」という社員の声への対処法はありますか?
A. 「変えること」を強調せず「不便を解決すること」にフォーカスすることが効果的でした。「今のシステムで不便を感じる場面はありますか?」という問いかけから始め、不便の解決策としてUI改善を提案することで、「変化への抵抗」ではなく「不便の解消」として受け取られやすくなりました。
Q5. 老舗企業のシステムUI改善で、まず着手すべき画面はどこですか?
A. 「最も使用頻度が高く、最も不満の声が多い画面」から始めることをすすめます。成功体験を最も早く・最も広く作れるからです。使用頻度が低い画面の改善から始めると、効果が実感されにくく次の改善への理解が得られにくくなります。
Q6. このプロジェクトで一番難しかったことは何でしたか?
A. 「技術的な設計」ではなく「変化を受け入れてもらうこと」でした。UIデザインの仕事で最も難しいのはデザイン自体ではなく「デザインを使ってもらうための合意形成」だと改めて実感しました。Stitch はビジュアルを素早く作れることで、この合意形成を助けてくれましたが、最終的には「人の心を動かすコミュニケーション」が重要でした。
まとめ
創業70年の老舗企業でのUI改善プロジェクトを通じて、Google Stitch の価値が「技術的なUIツール」にとどまらないことを実感した。ビジュアルを素早く作ることで「変化への対話」を生み出す——この機能が、デジタルへの抵抗が強い組織では特に重要だった。
伝統企業のDX支援は、最新技術を持ち込むことより「組織の文化と歴史を尊重しながら、少しずつ変えていくこと」が本質だと学んだ。Stitch はその「少しずつ」を加速させるためのツールとして、確かな価値を発揮してくれた。