フリーランスとして仕事をしていると、「デザインが必要な瞬間」と「デザイナーに頼む予算がない瞬間」が同時に来ることがある。
受発注の仕事をしている自分の場合、クライアントからWebサービスの制作を依頼されたとき、「UIのイメージを作る」という工程に毎回悩んでいた。外注すると費用がかかる。自分で作るとFigmaの習熟度が足りない。言葉だけで説明するとクライアントとの認識がずれる。
Google Stitch を使い始めたのは、この悩みを少しでも解消したかったからだった。6ヶ月が経ち、「変わったこと」と「変わらなかったこと」が見えてきた。
一言で言えば、Google Stitch によってフリーランスの「対クライアント業務」の一部は確実に改善した。一方で「案件の質を上げる」という本質的な問題は、ツールでは解決できなかった。
フリーランスとして抱えていた課題
Google Stitch を使い始める前の課題を整理しておく。
課題1:提案時のUIイメージ共有
新規案件の提案段階で「どんなUIにするか」のイメージを見せることができなかった。言葉でLPの構成を説明しても、クライアントが「違うものを想像していた」ということが打ち合わせ後に判明するケースが複数あった。
課題2:修正依頼への即時対応
「このページのレイアウトを変えてみてほしい」という依頼が来たとき、新しい案を作るのに時間がかかることがあった。修正の方向性をその場で確認できず、「一度試してみてから送ります」と言う場面が多かった。
課題3:提案の差別化
競合のフリーランスや制作会社と提案で差別化するのが難しかった。「スキルはあるが、見た目の提案力が弱い」という自覚があった。
変わったこと①:提案時のビジュアル品質
6ヶ月で最も変わったのは、「提案時に見せられるビジュアルの品質と速度」だった。
今は新規案件の提案前に、Google Stitch でそのサービスをイメージしたUIを2〜3パターン生成して持参する。これが提案の場の空気を変えた。
「こういう感じのサービスを想定しています」と言いながらUIを見せると、クライアントから「あ、こういう感じなんですね、じゃあここをこうしてほしいです」という具体的な反応が出やすくなった。言葉だけの説明をしていた頃は「なんとなく分かりました」というふんわりした反応が多かった。
受注率への影響
提案時にUIビジュアルを見せるようになってから、体感として受注率が上がった。正確な数字は計測していないが、「提案の場でその場でUIを調整してみせる」ことが、信頼につながっていると感じる場面が増えた。
「作れる人だ」という印象が、ビジュアルを見せることで伝わりやすくなる。これはフリーランスにとって、提案力の差別化要素になっている。
変わったこと②:修正対応のスピード
制作途中での「こっちの方向性に変えてほしい」という変更依頼への対応が速くなった。
以前は「少し時間をいただいて修正案を作ります」と言って、次の打ち合わせまでに修正案を作っていた。今は「その場でざっくりした方向性を出して確認する」ことができる。
打ち合わせの場でGoogle Stitch を開いて「こういう方向性のイメージです」と生成して見せる。「あ、これに近いですね、でもナビゲーションをこうしてほしい」というフィードバックをもらって即修正する。この往復が一回の打ち合わせで完結することが増えた。
変えられなかったこと①:案件単価
正直に書く。Google Stitch を使い始めても、案件単価は変わらなかった。
「AIを使って効率化した分、単価を上げる」ことを期待していたが、実際にはそうならなかった。クライアントにとっては「何を使って作ったか」より「何ができるか・いくらか」の方が重要だからだ。
効率化によって浮いた時間は「案件数を増やす」か「より良い成果物のために使う」かという選択肢があるが、単価交渉のカードとしてはあまり機能しなかった。
「コストが下がっても価格が下がるわけではない」
これはGoogle Stitch に限らない話だが、ツールによって制作コストが下がることと、クライアントへの請求価格が下がることは直結しない。「成果物の価値」と「制作コスト」は別の概念だ。
Google Stitch を使って制作時間が半分になっても、「同じ品質の成果物を半分の価格で提供する必要がある」わけではない。品質が維持されるなら、価格は変えなくていい。この整理ができてから、ツール活用への向き合い方が楽になった。
変えられなかったこと②:クライアントとの信頼構築プロセス
「ツールを使えば初めてのクライアントとの信頼もすぐ築ける」とはならなかった。
信頼はやり取りの積み重ねで築かれる。「約束を守る」「懸念に丁寧に答える」「提案に根拠がある」——こういった要素は、どんなツールを使っても代替できない。
Google Stitch でUIを素早く作れても、「この人に任せて大丈夫か」という信頼には直結しない。UIのビジュアルはきっかけにはなるが、信頼の実体は別のところにある。
フリーランス特有の「使い方の工夫」
クライアントワークを中心とするフリーランスならではの使い方として、気づいたことをいくつか共有する。
「AIで作りました」と言うかどうか
これは実際に悩んだ問いだ。提案時にGoogle Stitch で作ったUIを見せるとき、「AIで作りました」と言うかどうか。
自分の答えは「聞かれたら正直に言う」だ。積極的に「AIで作りました」と言う必要はないが、聞かれたら正直に答える。「AIツールを活用してラフ案を素早く作っています。本制作ではここからFigmaで仕上げます」という説明は、多くのクライアントに受け入れられている。
「ラフ案フェーズ」として位置付ける
Google Stitch で作ったものを「完成品」として提出しない。「方向性確認のためのラフ案」として位置付けることで、クライアントの期待値と実態が合う。
「ラフ案なので細部は後で詰めます」という前置きがあることで、「このまま本番で使えるの?」という誤解が生まれにくくなる。
よくある質問(FAQ)
Q1. フリーランスとしてGoogle Stitch を使うことに、倫理的な問題はありますか?
ツールを使うこと自体に倫理的な問題はありません。依頼主との契約・納品物の定義・著作権の帰属などを明確にしておくことが重要です。「AIを使って作ったもの」を「自分が全て手で作ったもの」として偽る行為は避けるべきですが、AIをツールの一つとして活用することは適切な使い方です。
Q2. Google Stitch で作ったUIを納品物として渡せますか?
クライアントとの契約内容によります。「HTMLファイルの納品」が求められる場合は、エクスポートしたコードを渡すことができますが、本番環境への組み込みには別途実装が必要なことを明示すべきです。「デザイン案の画像」として渡すなら、スクリーンショットで十分です。
Q3. 副業でWebデザインをしている場合にも使えますか?
はい、特に向いています。副業では本業との兼ね合いで作業時間が限られるため、「素早く形にする」ことへのニーズが高いからです。提案・ラフ案・修正案の作成を効率化することで、限られた時間内でこなせる案件の質と量が改善できます。
Q4. フリーランスとして、Google Stitch の費用は経費として落とせますか?
事業に関連するツールの費用は経費として計上できる可能性があります。ただし、具体的な経費処理の方法や要件は税理士や国税庁のガイドラインをご確認ください。「業務で使用している」という実態を明確にしておくことが重要です。
Q5. Google Stitch を使うことで、対応できる案件の種類が広がりましたか?
はい、「UIデザインが必要だが、デザイナーを別途入れるほどではない」という中規模案件に対応しやすくなりました。以前は断っていたか、デザイナーを外注に入れてコストが高くなっていた案件を、自分一人でこなせるようになった場面があります。
Q6. クライアントからGoogle Stitch を使っていることへの反応はどうでしたか?
多くのクライアントは「便利なツールを使っているんですね」という反応でした。「AIで作ったもの」に対して拒否感を示す方はいませんでした。むしろ「こんなに素早くイメージが見られるんですね」と好意的に受け取られることの方が多かったです。
Q7. 複数クライアントの案件を同時に進める場合、どう管理していますか?
クライアントごとにスタイルテンプレート(カラー・フォント・トーン)をメモしておき、生成時に間違えないようにしています。特にカラーコードの混同は修正コストが大きいため、案件名と色設定のリストをNotionで管理しています。
Q8. Google Stitch が普及すると、フリーランスの仕事は減りますか?
「ツールを使えば誰でもできる単純なデザイン作業」は競争が激しくなる可能性があります。一方で、「クライアントの事業課題を理解して適切な解決策を提案する」「品質の最終判断をする」「クライアントとの関係を築く」という部分は、ツールでは代替されません。ツールに代替されにくい価値を高めていくことが重要です。
「速くなった」より「余裕ができた」方が正確かもしれない
6ヶ月の変化を振り返ると、「作業が速くなった」というよりも「余裕ができた」という表現の方が近い気がする。
提案の準備に追われなくなった分、「クライアントの業務課題を考える」時間が増えた。修正対応に時間を取られなくなった分、「もっと良い提案はないか」を考える時間が増えた。
Google Stitch は「時間を生み出す」ツールだ。その生まれた時間をどこに使うかが、フリーランスとしての成果に直結する。ツールが生み出した余白を、「より本質的な仕事」に使えているかどうか——それが6ヶ月後の評価の分かれ目だったと思う。