きっかけは、ちょっとした「試し」だった。
クライアントとの打ち合わせの最中に、「こういう感じのUIをイメージしているんですが」という話になった。いつもならその場では「分かりました、後日モックアップを送ります」と言って終わるはずだった。
でもそのとき、ふと思った。「今ここで作れるんじゃないか。」
ノートパソコンでGoogle Stitch を開いて、話しながらプロンプトを入力した。画面共有しながら「こういうイメージです」と言いながら生成ボタンを押すと、10秒後にUIが表示された。
クライアントが言った。「あ、こういう感じですか。じゃあ、このボタンをもう少し目立たせてほしいんですよね。」
その場でプロンプトを修正して再生成した。「こっちの方が近いですね。あと右上にロゴが欲しいです。」また修正した。
その打ち合わせは、いつもより30分短く終わった。そして「後日モックアップを送って確認してもらう」というやり取りが、一回なくなった。
一言で言えば、Google Stitch を会議でリアルタイムに使うと「言葉だけでは伝わらないイメージのギャップ」をその場で埋められる。これが議論の精度とスピードを同時に高める。
なぜ「その場で作る」ことに意味があるのか
打ち合わせでUIの話をするとき、いつも感じていた難しさがある。
「頭の中のイメージを言葉で説明するのが難しい」という問題だ。「シンプルにしたい」「使いやすくしたい」「プロっぽい感じで」——こういった表現は、話し手と聞き手で全く違うものを想像していることがよくある。
これを解消するために、これまでは「事前にモックアップを作って持参する」か「打ち合わせ後にモックアップを作って確認してもらう」という方法を取っていた。どちらも有効だが、「事前」だと話が変わったときに作り直しが必要になるし、「後日」だと確認のラリーが何往復も発生することがある。
「その場でリアルタイムに作る」という方法は、この両方の問題を解決する可能性がある。話しながらデザインを生成し、「これですか?」「もう少しこうしてほしい」という会話をその場でできる。認識のズレをリアルタイムに修正できる。
「モックアップを見せる」のではなく「一緒に作る」感覚
リアルタイム生成を使い始めてから気づいたのは、打ち合わせの「空気感」が変わることだ。
事前に作ったモックアップを「見せる」のは、どこか「審査される」ような緊張感がある。相手がどう思うか分からない状態で提示する。
でも、その場でプロンプトを入力して一緒に画面を見ながら生成するのは、「一緒に考える」という感覚に近い。相手も生成過程を見ているから、「こういう指定をするとこういうUIが出る」という理解を共有できる。
「私が作ってあなたが評価する」という関係から、「一緒に作る」という関係へのシフト。これが打ち合わせの質を変えた。
実際にうまくいった3つの場面
リアルタイム生成が特に効果的だった場面を3つ紹介する。
場面1:要件定義の初期段階
「どんなUIにするか」がまだ決まっていない段階の打ち合わせで、特に効果があった。
クライアントから「なんとなくこういう感じで」という曖昧なイメージをヒアリングしながら、その場でプロンプトを作り、生成する。出てきたUIを見て「これに近いですか?」と確認すると、「そうそう、でもこの部分は違う」という具体的なフィードバックが出てくる。
言葉だけのヒアリングでは「なんとなく」しか分からなかったイメージが、UIという視覚情報になった瞬間に具体的になる。この効果は予想以上だった。
場面2:方向性の選択を迫られているとき
「AとBどちらの方向性にするか」という意思決定が必要な打ち合わせでも、リアルタイム生成は有効だった。
「横並びのカードレイアウト」と「縦スクロールのリストレイアウト」のどちらがいいかを議論していたとき、両方をその場で生成して並べて見せた。言葉で「どちらが見やすいか」を議論するより、実際のUIを見ながら「こっちの方が直感的だね」と話せる方が、決定が速かった。
場面3:修正の方向性を確認するとき
「前回のモックアップについて修正してきました」という状況で、修正の方向性が正しいかをその場で確認したいときにも使えた。
「修正後のイメージをプロンプトにするとこうなります」とGoogle Stitch で生成して見せると、「あ、そういうことか、ちょっと違う」という即時フィードバックが出やすい。修正してから提出して、また修正依頼が来る、という往復を減らすことができた。
うまくいかなかった場面と学んだこと
良いことばかりではなかった。リアルタイム生成が逆効果だった場面も経験した。
細部の精度を求める打ち合わせでは逆効果
「色を少し暗くしてほしい」「このボタンを5px右に動かしてほしい」といった、ピクセルレベルの細かい調整を議論する打ち合わせでは、Google Stitch のリアルタイム生成は向いていない。
プロンプトで「ボタンを少し右に」と指定しても、毎回全体が再生成されるため、指定した以外の部分も変わってしまうことがある。細部の精度が必要な段階では、Figmaなど精密な操作ができるツールの方が適している。
ネット環境が不安定な場所では使えない
当然だが、Google Stitch はWebブラウザベースのツールなので、ネット環境が必要だ。先方の会議室のWifiが不安定で、生成に時間がかかったり、接続が途切れたりした場面があった。
オフラインや不安定なネット環境での打ち合わせには、事前に画面キャプチャを撮っておく、あるいはFigmaで作ったモックアップを事前に用意しておくという保険が必要だ。
「即座に完成形を見せる」という期待が高まりすぎる
一度リアルタイム生成を見たクライアントが、「毎回その場で作り直せるの?」という期待を持つようになることがあった。
Google Stitch でできることとできないことを最初に説明しておかないと、「即座に全部直せる」という誤解が生まれ、後で調整が必要な場面で困ることがある。リアルタイム生成を使う前に「大枠の方向性を確認するためのツールです。細部の仕上げは別途時間が必要です」と一言添えておくことが重要だと学んだ。
今の自分なりの使い方
試行錯誤を経て、今は「どの打ち合わせでGoogle Stitch を使うか」をある程度意識して使い分けている。
- 使う打ち合わせ:要件定義の初期段階、方向性の意思決定、ラフなイメージ共有
- 使わない打ち合わせ:細部の確認・修正、最終デザインのレビュー、デザインシステムの議論
最初は「打ち合わせで使える」という発見に興奮して、何でもかんでもその場で生成しようとしていた時期があった。でもそれだと「今すぐ直してほしい」という期待を生みすぎることが分かり、今は「初期フェーズのイメージ共有」に絞って使っている。
会議でGoogle Stitch を使うことを相手に知らせておくかどうかも考えたが、特に説明しなくてもいいと判断している。「今ここでイメージを作ってみましょうか」と自然に提案して、自然にツールを開けばいい。
よくある質問(FAQ)
Q1. 会議でGoogle Stitch を使うことをクライアントに説明する必要はありますか?
必須ではありませんが、初めて使う場面では「AIのデザインツールを使ってイメージを可視化します」と一言添えると、相手が戸惑わずに済みます。特に「AIが作ったデザインを提案される」ことに違和感を持つ可能性があるクライアントに対しては、事前に「ラフなイメージ確認のためのツール」として説明しておくと良いでしょう。
Q2. 打ち合わせ中に生成に失敗したときはどうすればいいですか?
プロンプトを修正してすぐ再生成できるため、その場での対応が可能です。「少し表現を変えてみますね」と言いながら再挑戦すれば、むしろ「リアルタイムで調整できる様子」を見せることができます。完全に失敗して何も出てこないことは少ないため、焦らず対応できます。
Q3. リモート会議(Zoom・Teams)でも使えますか?
はい、画面共有機能を使えばリモート会議でも同じように使えます。むしろ「全員が同じ画面を見ている」という状況が作りやすいリモート会議の方が、リアルタイム生成の効果を感じやすい場合があります。画面共有→Google Stitch を開く→プロンプト入力→生成という流れをそのまま見せられます。
Q4. 会議中に作ったデザインはそのまま資料として使えますか?
会議中に生成したUIのスクリーンショットを撮って、議事録や提案書に添付するという使い方は効果的です。「この打ち合わせで確認した方向性」という形でビジュアルを残せるため、後の認識ズレを防げます。
Q5. 非デザイナーのメンバーが会議でGoogle Stitch を使うのは難しいですか?
プロンプトの入力と生成ボタンを押す操作だけなので、デザイン知識がなくても使えます。ただし「どんなプロンプトを書けばいいか」という感覚は、数回使ってみて身に付くものです。最初は「これでいいのかな」という不安があるかもしれませんが、出てきたUIを見ながら「もう少しこうして」と調整する感覚で使えば大丈夫です。
Q6. 会議中に複数のパターンを比較する場合、何パターンまで現実的ですか?
会議時間にもよりますが、2〜3パターンの比較が現実的です。それ以上になると「どれが良いかよく分からない」という選択肢過多の状態になりやすく、意思決定が逆に遅くなることがあります。「AかBか」という二択を前提にするか、多くても3択に絞るのが打ち合わせの場ではちょうどいいと感じています。
Q7. iPad・タブレットでの使用は問題ありませんか?
Webブラウザが動作するデバイスであれば基本的に使えますが、プロンプトの入力のしやすさや画面の広さの観点では、ノートPCの方が快適です。タブレットは「生成したUIを相手に見せる」という用途には向いていますが、プロンプトを素早く修正するにはキーボードが使えるデバイスの方が向いています。
Q8. 会議中にGoogle Stitch を使うことで、準備の手間は減りますか?
「事前のモックアップ準備」の手間は減る可能性があります。特に要件定義段階の打ち合わせでは、「とりあえずその場で作って確認する」というアプローチを取れるため、事前準備なしで打ち合わせに臨めるケースが増えました。ただし、ある程度イメージを言語化しておく準備(どんなUIが必要か、どんなトーンにしたいかなど)は相変わらず必要です。
「後日送ります」が減った、それだけで十分だった
Google Stitch を会議で使い始めて一番変わったのは、「後日モックアップを送ります」という場面が減ったことだ。
この「後日送ります」には、いくつかのコストが隠れている。作る時間、送るタイミング、相手が確認するまで待つ時間、フィードバックが来てまた修正する時間——これらが一回のやり取りで積み重なる。
その場でイメージを可視化できると、この往復のコストが大幅に減る。全部なくなるわけではないが、「確認のラリーが1〜2往復減る」だけでも、プロジェクト全体のスピードは体感できる程度に変わる。
打ち合わせのやり方は人によって違うし、全ての場面でリアルタイム生成が最適かどうかは分からない。でも「一度試してみる」価値は、間違いなくあると思っている。次の打ち合わせで、ノートPCのブラウザでそっとGoogle Stitch を開いてみるところから始めてみてほしい。